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食品廃棄ゼロの新しい試み 野々村真希 農学博士 連載「口福の源」食品廃棄ゼロの新しい試み

2025.05.05 09:08

 環境省が2021年度から毎年、「食品廃棄ゼロエリア創出モデル事業」なるものを実施している。食品ロスの削減と食品リサイクル(堆肥化、飼料化など)を推進するモデル区域を創出しようとする事業である。取り組む団体は毎年2月から3月にかけて一般募集され、独自の実施計画が審査を経て採択されれば、1年間、実施にかかる費用の支援を受けられる。採択件数は毎年9件程度で、小売企業、一般社団法人、NPO法人、県や市、大学の研究室と、採択団体はさまざまである。

 関西で事業を展開する小売企業のエイチ・ツー・オー リテイリング株式会社は、22年度から3年続けて採択されている団体の一つ。小売店舗で発生する食品廃棄物の堆肥化、家庭での生ごみ堆肥化の呼びかけ、できた堆肥の地域菜園での活用、家庭で余った食材を持ち寄って料理するサルベージ・パーティーの開催などの複数の取り組み(食とわ)を、兵庫県川西市を中心としたエリアで集中して実施することによって、モデル区域を目指している。

 この取り組みが年々、面白くなっている。特に家庭での堆肥化とその活用の仕方がユニークなのだ。例えば、堆肥の活用場所は、市民ホール前や鉄道の駅ホーム内にある未活用の畑や花壇を選んでいて、堆肥化の取り組み参加者たち自身がそこで花や野菜を育てている。多くの人が通りかかる場所で活用することで、地域の人に取り組みとその成果を認知してもらうことができるし、認知してもらえたことを取り組み参加者自身が感じることもできる。

 また、できた堆肥で野菜を作り、地域の動物園に餌として届ける活動もしている(写真)。環境のためだけではなくて、取り組むこと自体が楽しくて、地域の人々や動物たちのためにもなっていると実感できることが、取り組みを続けるモチベーションになる。その結果、必ずしも環境への意識が高くない人も取り組みに巻き込み始めている。私も参加したい。川西の住民がうらやましい。

 もともとは、エイチ・ツー・オーリテイリングが家庭での堆肥化の参加を呼びかけるところから始まったが、参加者同士の交流が生まれ、今では参加者が自発的にインスタグラムや紙媒体で自分たちの取り組みを発信したり、キャンプ場で活動を知ってもらう場をセッティングしたりと展開してきたという。参加者が互いに話しやすくなる工夫、参加者が「お客さん」にならない工夫があったからこそ、この展開があったのだと思う。

 さすが小売企業というか、こういったアイデアは行政や研究者ではなかなか出せない。本モデル事業がうまく活きた例だと思う。25年度の審査もそろそろ始まる。今年はどんな団体のどんな計画がスタートするのだろう? 楽しみだ。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.17からの転載】

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