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今後に可能性を感じた令和一揆 小視曽四郎 農政ジャーナリスト 連載「グリーン&ブルー」

2025.04.28 09:53

 桜咲く3月末の都心の華やかな目抜き通り。そこを全く場違いな30台余りのトラクターが駆け抜けた「令和の百姓一揆」。予想外に「頑張れ」「かっこいい」などデモ隊への声援も目立ち、主催した農家たちは「一揆」を通して今後、市民や消費者との連携に大いに可能性ありと感じたようだ。実行委員の農家たちにしてみれば「このままでは農民が消え、作物が消え、村が消えてしまう」(主催団体の菅野芳秀代表)という切羽詰まった思いの末の行動。金も組織もなく先の見えない取り組みだったが、組織に頼らない取り組みが逆に一般市民や消費者を巻き込み、沿道の人々への強烈なアピールに成功した。米価格まで高騰し、消費者の食への危機感で関心が高まったとの指摘もある。

 事務局を担当した山田正彦法律事務所によると、参加者4500人の中に「SNS(交流サイト)が奏功したのか、消費者ら農業と関係のない人がかなり入っていた」という。農業や食料に関わるデモといえばかつてはJA(農業協同組合)の得意芸だった。米国との牛肉・オレンジ輸入自由化交渉、関税貿易一般協定(ガット)ウルグアイ・ラウンド交渉、WTO(世界貿易機関)交渉、TPP(環太平洋連携協定)など国内農業を脅かす市場開放問題では、日比谷公園で集会をした後、国会までデモをするのが定番。しかし、そのJAも2015年の安倍政権のJA改革で、JA全中が農協法人から一般社団法人に解体され、単位JAへの指導力がそがれてから示威的なデモはしなくなった。農家がデモを通じて意思表示する機会がなくなってしまったのだ。

 しかも、70年前の1955年、総人口の4割に相当する3635万人だった農家人口は2019年には3%の398万人に激減。「農業票」の影響力の減退で政治家が農業離れし、もはや農業サイドのアピールだけで要望を実現するのは困難な時代になったとの指摘もある。「(政府が)農家をとにかく守るという姿勢、踏みとどまってほしいというメッセージが全くない」と落胆した菅野氏らは今回、政府への抗議行動は一切せず、消費者ら幅広い人々との連携を目指すことを決めた。「農業が崩壊して一番影響を受けるのは消費者。農民と消費者が力を合わせて政治を変える大きな連携を作ろう」という狙いだ。農家人口は減っても国民は誰しもが食料が必要な消費者だ。党派の隔たりも関係ない。政治が消費者を無視して成り立つことはできない。一揆解散の後、約200人が集まった「寄り合い」で、農民運動全国連合会(農民連)の長谷川敏郎会長は「食と農の危機を多くの消費者が自分ごとと捉えて行動が広がったことに、大きな希望を感じる」と述べた。

 今回の成功は「始まりのスタート」と山田事務所。トランプ政権による日本への農産物輸入要求が伝えられる中、日本の食と農を守る「生産者・消費者連携」の今後に注目していきたい。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.16からの転載】

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